糖尿病を治す秘訣

糖尿病は治らない病気とされています。しかし、薬が要らない状態(寛解)にはできるのです。それは主に「食事と運動」によって、です。

糖尿病の食事といえばカロリー制限や糖質制限が指導されていますが、どちらも有効とはいえません。糖尿病を改善するには、どのような食事がよいのでしょうか?

また、どんな運動をすればよいのでしょうか?

 

血糖値を下げることが、糖尿病の治療ではない

糖尿病は「血糖値が高くなる病気」だと思っている人が多いですが、本当は違います。糖尿病の人は四六時中、高血糖になっているわけではなく、低血糖になっていることもあるのです。

糖尿病は「ブドウ糖が細胞に入りにくくなる病気」です。ブドウ糖の大半(90%)を消費しているのは、脳と筋肉です。高血糖になるのは、脳や筋肉の細胞にブドウ糖が入りにくい結果にすぎないのです。

したがって、「血糖値やHbA1cが下がった=糖尿病が治った」というわけではありません。糖尿病が治るということは、「脳や筋肉にブドウ糖が入りやすくなって、細胞のエネルギー(ATP)が増える」ことです。

つまり、血糖値を下げることが治療ではないのです。

 

糖尿病でおきやすい症状

糖尿病で怖いのは糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症で、これらは3大合併症といわれています。そして、「合併症さえ防げばいい」と言っている医者もいます。

しかし、3大合併症のほかにも多くの症状が出ます。代表的なのは、次の3つです。

  • 心血管病(脳溢血・脳梗塞・狭心症・心筋梗塞・下肢閉塞性動脈硬化症など)
  • うつ病
  • 認知症

 

これらの症状はすべて、「低血糖」になるとおきやすいことが分かっています。

つまり、厳しい糖質制限やインスリン注射、SU薬(スルホニル尿素薬)などによって低血糖になると、心血管病やうつ病や認知症になりやすいのです。

脳は、身体全体が消費するカロリーの20%を消費しています。脳のエネルギー源は、100%ブドウ糖です。脳は考えたり記憶したりするだけでなく、身体の動きをコントロールしたり、内臓の働きや体温をコントロールしたりなど様々なことを行なっていて、睡眠中でも日中と同じだけブドウ糖を消費しています。

もしブドウ糖が足りなくなれば、脳が正常に働かなくなります。すると、どうなるでしょうか? 考える力や記憶力が低下し、運動機能や自律神経の働きも低下するでしょう。だから低血糖になると、うつ病や認知症になりやすくなるのです。

 

HbA1cを6.5以下にしてはいけない!

低血糖になると心血管病のリスクも高くなって、命を縮めることになりかねません。

長期間、低血糖になっていると、動脈硬化が進んで血管のなかに瘤(プラーク)ができやすくなり、これが心臓の冠動脈にできれば心筋梗塞になる恐れがあり、頚動脈にできれば脳梗塞になる恐れがあるのです。

実際、「糖尿病の治療で血糖値を下げすぎると、死亡リスクが高まる」ということが明らかになっています。

その事実を明らかにしたのは、2001年からアメリカ国立衛生研究所が行なった「アコード試験」です。「糖尿病の血糖コントロールを正常化させることで、心血管病に与えるリスクが低減するか?」を調べた大規模な研究です。

この研究は、「HbA1cを6.0未満に下げたグループは、HbA1c7.0~7.9のグループより死亡率が22%も高くなった」という結果になり、当初5年間の追跡調査を行なう予定だったのに、わずか3年7ヶ月で打ち切られました。[i]

つまり、「厳格な血糖コントロールは、低血糖のリスクを高め、死亡率を上昇させる」ということです。

この研究が発表された後、世界中で様々な追試が行なわれ検証されました。そのなかで重要な研究が、イギリスのカーディフ大学のクレイグ・カリー博士らが、4万8000人の糖尿病患者のデータを解析して、「HbA1cと死亡率の関連」を調べた研究です。

結果は、「死亡率がもっとも低いのは、HbA1cが7.5」でした。HbA1c7.5%と比較して、HbA1c6.4では死亡率が52%上昇し、反対にHbA1c11.0では死亡率が79%上昇したということです。[ii]

これらの研究から、「高齢者はHbA1cを8.0未満に抑えればよい」と基準が変わりました。

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、全ヘモグロビンのうち何%が糖化しているかを示す数値で、HbA1c8.0なら全ヘモグロビンの8%が糖化しているということです。糖化したヘモグロビンは酸素を運ぶことができず、元に戻ることはないため、赤血球の寿命(約120日)まで待つしかありません。ですからHbA1cを下げるには、少なくとも3~4ヶ月はかかります。

そして、目標は7.5でよいのです。50代60代でも7.0でよいのです。少なくても6.5以上であることが、低血糖を防ぐために大事なのです。

糖尿病の合併症が進行するのは、HbA1cが8.0を超えてからです。しかも、HbA1cが8.0を超えたからといって、すぐに合併症が発症するわけではありません。HbA1cが8.0以上という高血糖状態が何年も続くと徐々に毛細血管が閉塞していって、いずれ合併症が発症するのです。ですから、8.0未満に保てば合併症はおきないのです。

したがって、「絶対にHbA1cを6.2未満にしよう」と頑張る必要はないのです。「HbA1cが低ければ低いほど良い」という考えでいると、糖質を摂らないようになり、低血糖になっている時間が増えます。

低血糖になると、自律神経も正常に機能しなくなり、悪寒、疲労感や虚脱感、頭痛やめまい、不安やイライラなどといった自律神経失調症状が現れます。また脳の機能も低下しますから、集中力や記憶力、判断力などが低下し、うつ病や認知症のリスクも高まります。

そして重度の低血糖では、失明したり失神して倒れたり、突然死したりすることもあります。本当に危険なのは、高血糖より低血糖なのです。

低血糖になると筋肉が減っていき、糖尿病になる!

低血糖になると、筋肉がどんどん減っていきます。なぜ減ってしまうのでしょうか?

ブドウ糖は脳のエネルギー源ですから、足りなくなると脳が正常に機能しなくなります。

脳のブドウ糖が足りなくなると、まず肝臓に蓄えたグリコーゲンを分解して脳にブドウ糖を送ります。そして肝臓のグリコーゲンが枯渇すると、筋肉を分解してタンパク質からブドウ糖をつくり出して脳に送ります。これを「糖新生」といいます。

糖新生をくり返していると、どんどん筋肉が減っていきます。

まず犠牲になるのが、脚の筋肉です。太ももやふくらはぎの筋肉が減ると足腰が弱くなり、腰痛や膝痛などに悩まされるようになります。

次に犠牲になるのが、肩や胸の筋肉です。僧帽筋や大胸筋といった筋肉が減ると、重い頭を支える力が弱くなり、首痛や肩コリ、五十肩などに悩まされるようになります。

こうして筋肉が減っていくと、筋肉に蓄えられるブドウ糖が減少します。

体重70キロの人では、概ね筋肉に250gのブドウ糖をグリコーゲンで蓄えられます。

1食あたりの平均的な食事の糖質量は75gですから、3食で225gの糖質を摂ることになりますが、筋肉には250gものブドウ糖を蓄えられるのです。

ところが、筋肉が減ると蓄えられるブドウ糖が少なくなるので、高血糖になりやすくなります。つまり、低血糖によって筋肉が減るから、高血糖になりやすくなるのです。

 

とくに夕飯のごはんが少ないと、夜寝ている間に肝臓のグリコーゲンが枯渇してしまいます。すると、夜中に目が覚めてしまいます。筋肉を分解するために、アドレナリンが分泌されるからです。アドレナリンで筋肉を分解して、タンパク質をブドウ糖に変えるのです。そのとき必要なのが、「グルカゴン」というホルモンです。グルカゴンは、すい臓から分泌される「血糖値を上げるホルモン」です。

こうして夜寝ている間に、筋肉が減っていくのです。

筋肉を分解するために出るアドレナリンが心身を興奮させて、血圧や血糖値を高めます。

そして、グルカゴンが多く分泌されると糖尿病になるのです。[i]

[i] Long in the shade, glucagons re-occupies centre court. Henquin, 2011

「糖質の摂りすぎ」が高血糖の原因ではない!

「糖質を摂りすぎるから高血糖になる」のではありません!

高血糖になるのは、ブドウ糖が細胞に入らないからです。

なぜ、入らないのでしょうか?

ブドウ糖が細胞に入るには、インスリンが必要です。

すい臓からインスリンがまったく出ないのが、1型糖尿病です。

一方、2型糖尿病は、インスリンは出ているけれど、インスリンの効きが悪い状態です。これを「インスリン抵抗性」といいます。

では、インスリン抵抗性の原因は何でしょうか?

「糖質の摂りすぎ」ではありません。

インスリン抵抗性の原因は「炎症」です!

主に次の3つが、インスリン抵抗性をあげる慢性炎症です。

  • 歯周病
  • リーキーガット
  • 内臓脂肪

 

歯周病や虫歯は、口腔内の菌によって歯茎や歯髄におきる炎症です。それによって、血液中の「炎症性サイトカイン」が増えます。炎症性サイトカインは「炎症をおこせ!」という、免疫細胞のメッセージ物質です。

リーキーガットは、未消化なタンパク質や腸内細菌が血液に侵入しやすくなった腸です。腸から血液に侵入した未消化タンパク質や腸内細菌を、免疫細胞が排除しようとするため軽度な炎症がおきて、「炎症性サイトカイン」が増えます。

脂肪肝などの内臓脂肪からも、「炎症性サイトカイン」が分泌されます。

このように歯周病・リーキーガット・内臓脂肪によって「炎症性サイトカイン」が増えると、インスリン抵抗性が上がるのです。その結果、ブドウ糖が脳や筋肉の細胞に入りにくくなって高血糖になるのです。

したがって高血糖を改善するには、歯周病やリーキーガットを治し、内臓脂肪を減らして、「炎症性サイトカイン」を減らせばいいのです。

歯周病やリーキーガットや内臓脂肪を放置して、「糖質さえ減らせばいい」という考えでいるから低血糖になるのです。

低血糖にならないためには、糖質をしっかり摂らなければいけないのです。

しかし、歯周病やリーキーガットや内臓脂肪を助長する糖質は避けなければいけません。

 

消費カロリーの60%を、ごはんで摂る

現在は、70年ほど前に食べていたごはんの半分も食べていないのに、糖尿病人口が300倍にも増えています。ごはんの摂取量が半分以下なのに糖尿病が爆増しているのですから、「ごはんの食べすぎが原因ではない」ことは明白です。

では、ごはんに代わって何が増えたのでしょうか?

それは、小麦と大豆と砂糖です!

小麦(パン・麺)に含まれるグルテンは、リーキーガットを引きおこします。

大豆(豆腐・豆乳・枝豆・煮豆・厚揚げ・もやし・キナコなど)に含まれるレクチンも、リーキーガットを引きおこします。

リーキーガットによって炎症性サイトカインが増えて、インスリン抵抗性が上がるから高血糖になるのです。

<小麦・大豆→リーキーガット→炎症性サイトカイン→インスリン抵抗性→高血糖>

 

そして砂糖は、ブドウ糖と果糖が一分子ずつ結合した糖ですから、半分は果糖です。

この果糖が、様々な病気を引きおこす元凶なのです。

腸から吸収された果糖は、肝臓でほぼ100%中性脂肪に変わります

そのため果糖を毎日たくさん摂取していると、高脂血症や脂肪肝になります。

脂肪肝になると、脂肪細胞から炎症性サイトカインが放出されて、インスリン抵抗性が上がります。そのため、高血糖になります。

高血糖のままでいると血管がダメージを受けるので、身体は急いで血糖を下げようとしてインスリンが大量に分泌されます。

すると、すぐに血糖値が下がりますが、大量のインスリンによって血液中の脂肪が皮下脂肪や内臓脂肪に吸収されていきます。その結果、体脂肪が増えて肥満になります

また、大量のインスリンによって血糖値が下がりすぎて、低血糖になることもあります。

すると「何か甘いもの」が欲しくなります。そして菓子パンやケーキ、チョコレートやアイスクリーム、クッキーやビスケット、果物やジャムなどといった果糖がいっぱい入ったものを食べるのです。あるいはエナジードリンクやスポーツドリンク、甘い炭酸飲料や缶コーヒー、果汁や乳酸菌飲料などといった果糖がたっぷり入ったドリンクを飲むのです。

そうして摂った果糖が、肝臓で中性脂肪に変わって、さらに皮下脂肪や内臓脂肪を増やすことでインスリン抵抗性がさらに上がって、高血糖になります。

すると、さらに多くのインスリンが分泌されて低血糖になり、また甘いものが欲しくなって果糖を摂取する…といった悪循環に陥って肥満になり、ついには糖尿病になるのです。

また、血糖値が乱高下すると自律神経も不安定になりますから、悪寒がしたり、虚脱感や猛烈な疲労感を感じたり、動悸や不眠、頭痛やめまい、胃腸の不良などといった様々な自律神経失調症状も現れます。

つまり、高脂血症や肥満や糖尿病や自律神経失調症を引きおこすのは「果糖」なのです!

 

ブドウ糖は脳や筋肉のエネルギーになって、すべて消費されます。

 果糖は中性脂肪になって、様々な代謝障害と自律神経失調を引きおこします。

 

このようにまったく異なるのに、まとめて「糖質」と呼んでブドウ糖まで悪者扱いしているのです。たしかに高血糖になれば血管が傷むから良くないですが、血液中のブドウ糖を細胞に入りにくくしているのは「果糖」なのです。

<果糖→中性脂肪→インスリン抵抗性→高血糖>

 

ごはんの糖質は100%ブドウ糖で、果糖は一切含まれていません。

しかし、玄米にはレクチンやサポニンなどといったリーキーガットを引きおこす成分が含まれていますから良いとはいえません。

それに対して白米には、グルテンやレクチンやサポニンといったリーキーガットを引きおこす成分は一切含まれていません。

 

ちなみに、糖質を制限して、消費カロリーの大半を肉や魚や卵から摂ると、脂肪の摂りすぎになって心血管病リスクが増大します。決して肉や魚や卵が身体に悪いわけではなく、大量に摂って「高脂肪食になれば悪い」ということです。したがって、『消費カロリーの大半(約60%)を糖質から摂る』のが、もっとも健康によいのです。

ただし、リーキーガットを引きおこす成分や果糖を含まない糖質であることが大事です。

 

要するに、リーキーガットを引きおこす小麦(パンや麺)と大豆(豆腐・豆乳・枝豆・煮豆・厚揚げ・キナコ・もやし)と、糖代謝異常を引きおこす果糖を含む食品(果物・果汁・甘い菓子類・甘いドリンク類)をできるだけ摂らないようにして、消費カロリーの60%を白米ごはんから摂ればよいのです。

 

ごはんを食べると、GLP-1が増えて血糖値が下がる!

ごはんには、2.5%ほどタンパク質が含まれています。このタンパク質が、腸から分泌される「GLP-1」というホルモンの分泌を促します。

GLP-1は、インスリンの分泌を促すとともに、グルカゴンという血糖値を上げるホルモンの分泌を抑える働きがあるのです。つまり、血糖値を上げるグルカゴンを抑えることで、糖尿病が改善されるのです。

GLP-1は「GLP-1受容体作動薬」という薬にもなっていますが、ごはんをよく噛んで食べれば、腸から分泌を促せるのです。

 

運動は、薬に勝る

糖尿病を治すためには、運動も必要です。

ブドウ糖の70%を消費しているのは、筋肉だからです。

筋肉を動かさないからブドウ糖が消費されず、高血糖になるのです。

運動すると、インスリンがなくてもブドウ糖が筋肉の細胞に取り込まれるのです。

そして運動を毎日続けると、細胞にブドウ糖を取り込むGLUT-4(グルコース輸送体)が増えていくのです。

炎症性サイトカインを分泌する内臓脂肪も、運動すれば減っていきます

また、運動すると骨から「オステオカルシン」というホルモンが分泌されます。このオステオカルシンも、腸からGLP-1の分泌を促すのです。GLP-1が増えれば、インスリンの分泌が促されるとともに、血糖値を上げるグルカゴンの分泌を抑えることができます。

つまり、運動すれば薬と同じ効果が得られるのです。

最適なのは有酸素運動で、ウォーキングやサイクリング、エアロバイクなどといった運動を、1回最低20分×3回を毎日行なうことです。(ランニングは腸温が上がってリーキーガットが助長されるので、あまりお勧めしません。)

 

低血糖にならない糖尿病薬

血糖値を下げようとするより、インスリン抵抗性を下げることです。
それには「炎症性サイトカイン」を減らせばよいのです。

しかし、歯周病を治療しても、リーキーガットを修復するために食事を改善しても、内臓脂肪を減らすために運動をしても、すぐに炎症性サイトカインが減るわけではありません。少なくても半年~1年はかかるでしょう。

炎症性サイトカインが減るまでは、どんな食事をしても血糖値が高くなってしまいます。ですから、炎症性サイトカインが減るまでは薬を利用するほうがいいでしょう。

糖尿病の治療は、血糖値を下げることより、低血糖にならないことが何よりも重要です。

もっとも低血糖になりやすいのは、インスリンの注射とSU薬(スルホニル尿素薬)です。

これらの代わりに、低血糖をおこしにくい薬に変更されるといいでしょう。

ただし、インスリンの注射を止める場合は、まず尿検査で「インスリンが分泌されているか?」を調べることが必要です。CPR(C-ペプチド)の量を測れば、すい臓がどれだけインスリンを分泌しているか分かります。

CPR値が1日10μg以下のときは、インスリンの分泌が足りないので、インスリンの注射が必要です。CPR値が1日20μg以上あれば、インスリンは分泌されています。

<低血糖をおこしにくい薬>

ピオグリタゾン(アクトス)

ピグアナイド(メトホルミン・メトグルコなど)

αグルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ・ベイスン・セイブルなど)

DPP-4阻害薬(トラゼンタ・エクア・ネシーナ・ジャヌビア・グラクティブなど)

GLP-1受容体作動薬(リベルサス・ビクトーザ・バイエッタ・オゼンピックなど)

[i] N Engl J Med 2008;358:2545-2559

[ii] Lancet 2010;375:481-489

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