うつ病と新型コロナ後遺症の共通原因

気分が落ち込んで、何もする気になれない。

何をしても楽しいと感じないし、何事にも興味や喜びを感じない。

食欲がないので、食べる量がきわめて少ない。

不眠で、疲れが取れない。

思考力や集中力や記憶力が、著しく低下している。

身体全体が重くだるく、何をしてもすぐにグッタリ疲れてしまう。

こういった症状に悩まされているのが、うつ病や新型コロナ後遺症の人たちです。

その原因を、東京慈恵会医科大学の近藤一博教授が解明されました。

 

共通原因は『アセチルコリンの不足』だった!

近藤教授は長年ヘルペスウイルスを研究してきたウイルス学者で、「ヘルペスウイルスと疲労との関係」を調べてきました。その結果、慢性疲労症候群とうつ病と新型コロナ後遺症に共通する原因を見出しました。

ヘルペスウイルスは、ほぼすべての人の神経系に潜伏感染しているウイルスです。

症状を引きおこす原因となるのは、ヘルペスウイルス(HHV-6)が持っている「SITH-1」という遺伝子です。

SITH-1遺伝子は、細胞内のカルシウム濃度を上昇させる性質があるタンパク質(CAML:Calcium modulating ligand)と結合します。すると、匂いを感じるセンサーである嗅球細胞が死滅(アポトーシス)していくのです。

そして嗅球細胞が死滅すると、脳内のアセチルコリンが減少するのです。アセチルコリンを受け取る側(嗅球)がなくなると、産生する側(脳)も作らなくなってしまうのです。

その結果、「コリン作動性抗炎症経路」が働かなくなって、脳内炎症を抑えられなくなります。

<ヘルペスウイルスSITH-1遺伝子⇒嗅球死滅⇒アセチルコリン減少>

そこに、新型コロナ感染をはじめ、過労や精神的ストレスやリーキーガットなどによって体内で発生した「炎症性サイトカイン」が脳内に流入してくると、脳内炎症がおきるのです。そして脳内炎症によって、うつ症状や強い倦怠感や疲労感などが生じるのです。

<アセチルコリン減少+炎症性サイトカイン⇒脳内炎症⇒うつ症状・倦怠感>

 

脳内炎症を抑えるには?

脳内炎症に対して、通常の消炎鎮痛剤は効きません。

脳内炎症を抑制できるのは、アセチルコリンだけです。アセチルコリンによって「コリン作動性抗炎症経路」が働いて、脳内炎症が抑制されるのです。したがって、脳のアセチルコリンを増やすことが必要です。

脳のアセチルコリンを増やせる唯一の薬が「ドネペジル」(商品名:アリセプト)です。現在この薬は、アルツハイマー型認知症の薬として認可されていますが、うつ病や慢性疲労症候群や新型コロナ後遺症には承認されていません。しかし近いうちに、うつ病や慢性疲労症候群や新型コロナ後遺症の薬としても認可されるでしょう。

 

アセチルコリンの作用

アセチルコリンは興奮性の神経伝達物質で、次のような働きを担っています。

アセチルコリンは、『記憶や理解・学習』に必要な神経伝達物質です。ですからアセチルコリンが不足すると、記憶力や理解力が著しく低下してしまいます。

アセチルコリンは、『自律神経』の神経伝達物質です。胃腸をはじめ肝臓や腎臓などの機能を高める副交感神経の神経伝達物質であり、交感神経の神経伝達物質でもあります。交感神経の神経終末からはアドレナリンが放出されますが、脳から神経終末まではアセチルコリンが情報を伝達します。ですからアセチルコリンが不足すると、自律神経が正常に働かなくなってしまいます。

アセチルコリンは、筋肉に『運動司令』を伝える神経伝達物質でもあります。ですからアセチルコリンが不足すると、身体を思うように動かせなくなったり、少し動くだけで非常に疲れてしまったり、身体のあちこちが痛くなったりするようになります。反対にアセチルコリンが過剰になると、パーキンソン病の症状が現れます。

さらにアセチルコリンは、『脳内炎症』を抑える神経伝達物質でもあります。ですからアセチルコリンが不足すると、炎症性サイトカインによって生じる脳内炎症を抑えられなくなります。その結果、うつ病や慢性疲労症候群や新型コロナ後遺症が引きおこされます。

また、偏頭痛やてんかん発作、繊維筋痛症や機能性ディスペプシアなどもほぼ同じメカニズムで生じて、脳内で強く興奮する部位の違いによって症状が異なると考えられます。

 

参考文献:「疲労とはなにか」近藤一博著(講談社ブルーバックス)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA