ビールの抗糖化・抗酸化・抗肥満・抗炎症作用
老化とは、「糖化」や「慢性炎症」によって身体が「酸化」した状態です。ですから、糖化や慢性炎症や酸化を抑えることができれば、老化を遅らせることができます。
糖化とは、糖とタンパク質がメイラード反応をおこして、AGEs(Advanced Glycation End-products:終末糖化産物)が生成されることです。このAGEsがコラーゲンの弾力性を失わせていって、皮膚の張りがなくなり、血管や軟骨が硬くなり、血流が悪くなった組織の機能が低下していきます。
また慢性炎症がある部位では、免疫細胞のマクロファージからTNF‐α(腫瘍壊死因子)が分泌されます。TNF‐αによって炎症をおこしている細胞を死滅させて、炎症を収束させようとするのです。こうして血管内皮細胞が死滅すれば、動脈硬化が進行して血液が十分に流れなくなります。すると、血液が不足した組織の機能が低下していきます。
TNF‐αは内臓脂肪からも分泌されますから、内臓脂肪が増えると慢性炎症が持続して、老化が早く進みます。
さらに、糖化や慢性炎症によって、細胞内のミトコンドリアの機能が低下していきます。すると、ミトコンドリアの膜構造が崩壊して、ミトコンドリアから細胞内へ活性酸素が放出されます。その結果、ミトコンドリアの自殺装置が働いて、細胞死(アポトーシス)がおきます。アポトーシスが増えていくと細胞数が減っていき、身体が衰弱していきます。
こういった老化のプロセスを抑える物質が、ナント!ビールに含まれているのです。
ビールに含まれている抗酸化・抗糖化・抗肥満成分
ビールの原料であるホップには、抗酸化・抗糖化・抗肥満作用があるポリフェノールが含まれています。
その一つが、「イソフムロン」です。キリンホールディングスは東北大学と共同で、ビールの抗酸化作用について研究していて、世界で最も多くの文献と特許を有しています。
キリンホールディングスによる「ビールの抗酸化作用に関する研究」(http://www.kirinholdings.co.jp/rd/result/report/report_004.html)は、アルコール換算で等量となるように調整した赤ワインとビールの水溶液をラットに投与して、活性酸素を発生させる試薬を加えたビタミンEの残存率で、血液の抗酸化力を評価しています。
赤ワイン投与群では、1時間後にのみ抗酸化力が上がりました。それに対して、ビール投与群は、1時間後と4時間後の2回にわたって抗酸化力が上がりました。この結果から、ビールに含まれる抗酸化物質を研究し、「イソフムロンに強い抗酸化作用がある」ことを突き止めました。
さらに、キリンホールディングスは日本医科大学と共同で、「イソフムロンに抗糖尿病・抗肥満作用・抗炎症作用があるか」を調べる研究を行なっています。
2型糖尿病を発症させたマウスにホップエキスを配合した飼料を3週間与えたところ、「血糖値の上昇が抑制された」という結果が出ました。また、マウスの肝臓のコレステロールや中性脂肪の蓄積についても調べて、「ホップエキスを摂取したマウスは、コレステロールと中性脂肪の蓄積量が減少した」と報告しています。
ビールは動脈硬化を防いで血圧を下げる
さらにキリンホールディングスの研究グループは、イソフムロンの動脈硬化への効果についても調べました。
動脈硬化をおこさせたマウスに、脂質とコレステロールを多く含む飼料に、1%のホップエキス(イソフムロン)を加えて10週間与えたところ、「ホップエキスを与えたグループは、胸部大動脈の動脈硬化面積が低下している」ことが判明しました。
また、動脈硬化を促すインターロイキン6(IL‐6)の血中濃度も減少していました。
さらにキリンホールディングスは、「イソフムロンに血圧を下げる効果があるか」を人間で実験しました。血圧が高めの45~65歳の男女計10人に12週間、ホップエキスを摂取してもらう二重盲検試験を行ないました。
その結果、「ホップエキスを摂取したグループは8週目以降、最高血圧(収縮期血圧)が有意に低下していた」のです。
続いて、ラットの胸部大動脈の血管張力の変動を測定したところ、「イソフムロンは、血管に直接作用して血管を弛緩させ、血圧を下げる効果がある」ことが証明されました。
このようなキリンホールディングスの研究結果から、イソフムロンに抗糖化作用・抗肥満作用・降圧作用があることが立証されたのです。
サッポロビール株式会社も動脈硬化を防ぐ効果を、北海道大学大学院・保健科学研究員の千葉仁志教授と同大学院・医学研究科の伊敏助教授らとの共同研究で明らかにしています。
研究チームは、遺伝子操作によってHDLコレステロールが減りやすくなっているマウスに、ホップに含まれているポリフェノール「キサントフモール」0.05%と、コレステロール1%を混和したエサを18週間摂取させて、「キサントフモールがHDLコレステロールを増やして、動脈硬化を防ぐ効果がある」ことを明らかにしました。
さらに、胸部大動脈弓で総コレステロールの蓄積量を測定したところ、「キサントフモールの摂取によって有意に蓄積量が減少している」ことが確認されました。
動脈硬化の原因には「ホモシステイン」もあります。
ホモシステインが血液中に増えると、大量の活性酸素が発生してLDLコレステロールを酸化させて、動脈硬化が誘発されます。
ホモシステインの蓄積を防ぐためにはビタミンB6・B12・葉酸が必要ですが、これらはすべてビールに含まれています。
イソフムロンが、細胞のアポトーシスを防ぐ
キリンホールディングスは、イソフムロンが細胞のアポトーシスを防ぐ仕組みも解明しています。
遺伝子の働きを制御している物質(核転写因子)は、48種類あると言われています。
遺伝子DNAの遺伝情報は、まずRNAポリメラーゼという酵素によってmRNAにコピー(転写)されます。コピーされた情報に基づいて、アミノ酸が配列(翻訳)されていってタンパク質がつくられます。こうして遺伝子に基づいてタンパク質がつくられることを、「遺伝子が発現する」といいます。
遺伝子の発現をコントロールしているのが核転写因子で、「鍵穴」に例えられます。核転写因子の鍵穴に、「鍵」となる生理活性物質がピッタリはまれば、遺伝子が発現されてタンパク質がつくられます。(酵素やインスリンも、タンパク質の一種です)
イソフムロンは、48種類の一つである「Nrf2」という核転写因子の鍵穴にピッタリはまって、遺伝子を活性化します。すると抗酸化酵素がつくられて、活性酸素が消去されます。その結果、細胞内のミトコンドリアの機能不全を防いで、細胞死(アポトーシス)を回避できるということです。
イソフムロンが、慢性炎症を抑える
イソフムロンはNrf2以外に、「PPAR」という核転写因子にも作用します。
イソフムロンがPPARの鍵穴に結合すると、マクロファージから分泌されるTNF‐αが減って、炎症を抑えることができるのです。つまりイソフムロンが、炎症型のマクロファージを、抗炎症型のマクロファージに変えるのです。
血管の慢性炎症が抑えられれば動脈硬化を防ぐことができ、それが心臓病や脳梗塞、脳血管型認知症などを防ぐことにつながります。
フムロンが、血管新生を阻害する
ホップに含まれるポリフェノールには、「フムロン」もあります。
フムロンは、核転写因子の「NF‐κB」の働きを止めることで、血管新生を阻害する作用があることも明らかになっています。
新生血管は「ガンに栄養を送る専用の血管」ですが、「糖尿病性網膜症」も新生血管によっておきます。
糖尿病になると、目の網膜の毛細血管が糖化によってボロボロになっていきます。すると網膜に、酸素とブドウ糖が届かなくなります。それを補うために、新たな血管(新生血管)がつくられます。しかし新生血管は脆弱なため、眼底出血や網膜はく離といった症状をおこしやすく、それによって視力が低下したり失明したりすることになります。したがって、新生血管ができることは望ましくないのです。
戸部廣康博士は、ホップに含まれるフムロンに血管新生を阻害する作用があることを明らかにしています。
さらに戸部博士は、フムロンがどのような仕組みで血管新生を阻害するのかを調べて、フムロンに強力な抗炎症作用があることも明らかにしています。簡単にまとめると、次のようになります。
フムロンが、核転写因子NF‐κBを阻害することによって、COX‐2(傷害された細胞膜から遊離するアラキドン酸を酸化して、痛み増強物質プロスタグランジンを生成する酵素)をつくる遺伝子の働きが抑制される。その結果、プロスタグランジンが減ることによって強力な抗炎症作用が得られ、血管新生が阻害されるということです。
つまり、ホップに含まれるフムロンは、痛みや炎症を抑えるだけでなく、発ガンや糖尿病性網膜症の予防にも効果が期待できるということです。
適量を守ることが大事
いくら良い成分が含まれているからといっても、飲みすぎれば逆効果になります。ビールにはプリン体が含まれていますから、飲みすぎると痛風になる恐れがあります。
アルコールの分解能は個人差がありますから、人それぞれ適量が異なりますが、概ね350ml缶を1~3本が適量ではないかと思います。
またアルコールを分解できない人は、牛肉のビール煮などでアルコールを飛ばして、ポリフェノールを摂取できます。