ポックリ病を防ぐには?
まったく持病がない健康な人が、寝ている間に突然死んでしまうことがあります。俗に「ポックリ病」といわれていますが、原因は何なのでしょうか?
もっとも多い原因は「腸内ガス」
荘 淑旂(そうしゅくき)という台湾の医師が若い頃、当直をしていたときに救急車で運ばれてきた8人のポックリ病患者の死因を調べるために解剖したところ、全員に共通していたのは、『胃に平均1kgもの食べ物が詰まっていて、それが発酵してガスを生じて、胃袋がパンパンに膨脹して、肺や心臓を押し上げるように圧迫していた』ということでした。
荘医師は、8人の患者さんの生活スタイル、とくに食生活パターンに何か共通点がないかと考え、家族の方々や周囲の人たちに取材して回りました。
その結果、彼らの多くが猛烈サラリーマンで、『朝食は食べず、昼間は忙しくて昼食を摂るヒマがなく、1日分を夜にまとめて食べる』という食生活をしていたことが分かりました。夜たくさん食べて、それが消化されないうちに寝てしまうと、翌朝は朝食を食べる気がしないのは当たり前でしょう。
そこに疲労の蓄積や睡眠不足が重なり、当人が寝ている間に、食べたものが胃液や汁物やビールなどを吸って膨脹し、発酵して生じたガスが胃袋を膨らませて、肺や心臓を圧迫して発作をおこし、心臓を止めてしまったのではないか―と荘医師は推察しています。なかでも豆類は、胃の中で約3倍に膨らんでいたといいます。
ガスによって膨脹した胃が心臓を圧迫して止めてしまうということは、牛では「鼓腸症」という病名で知られています。牛の場合、胃がある左脇腹が異常に膨らんでいるので発見しやすく、発見したらすぐに五寸釘ほどの中空の針を刺してまずガスを抜き、それからすぐに開腹して、胃の中のものを出して助けるということです。
荘医師が診たポックリ病で担ぎこまれた人たちの上腹部も、胸より高くなるほど膨らんでいたといいます。
ガス膨満の弊害は、胃に限ったことではなく、小腸や大腸でもまったく同じです。
とくに大腸は、腸内細菌がおよそ1000兆個も棲息しているので、発酵によってガスが大量に発生します。ガスが過剰に発生すると大腸が膨満して、その周囲の内臓や血管が圧迫されます。その結果、様々な症状が引きおこされるのです。
食後だいたい2時間くらいで、食べたものが大腸に入っていきます。
大腸の腸内細菌が過剰になっていると、盲腸で異常発酵してガスが大量に発生します。
盲腸がガスで膨満すると、神経反射で左側の下行結腸からS状結腸が痙攣して細くなります。つまり、出口が閉じられてしまうわけです。
盲腸で発生したガスは上がって横行結腸に移行しますが、出口が閉じているのでオナラで排出されません。そのため、横行結腸にガスがたまってパンパンに膨らんでしまいます。
横行結腸のすぐ後ろに胃袋がありますから、胃が圧迫されます。そのため胃酸が逆流したり、ゲップが出たりするようになります。
また、ガスによる膨満で横隔膜が下がりにくくなるため、息が十分に吸えなくなります。そのため咳や痰が頻繁に出たり、息切れやめまい、立ちくらみなどがおきやすくなったりします。
さらに、ガスで押し上げられた横隔膜によって心臓が圧迫されると、狭心症のような胸痛や胸苦しさが出ます。もし冠動脈が圧迫されれば、心臓が止まってしまいます。このような症状を「ロエムヘルド症候群」といいます。20世紀初めに内科医ルートヴィヒ・フォン・ロエムヘルドが発見したので、このように呼ばれています。
つまり、夜中寝ている間に心臓を止めてしまう犯人は、「腸内ガス」なのです!
なぜ腸内ガスが多く出るのか?
胃や肺や心臓などが圧迫されるほど過剰なガスが出るのは、なぜでしょうか?
それは、ガスを発生する食品をたくさん食べているからです。
『ガスを発生する食品成分』は、次の5つです。
①乳糖(牛乳・チーズ・ヨーグルト・アイスクリームなどに含有)
②果糖(果物・果汁・砂糖・果糖ブドウ糖液糖に多く含有)
③難消化性デンプン(レジスタントスターチ)
④食物繊維(セルロース・オリゴ糖・フラクタン・イヌリンなど)
⑤人工甘味料(アセスルファムK・アスパルテーム・キシリトールなど)
このなかで、もっとも多く摂取しているのは「食物繊維」でしょう!
食物繊維は胃腸の消化酵素で消化できないため、腸内細菌が分解します。すると発酵して、ガスが発生します。ですから、食物繊維を摂るほどガスが多く発生して、お腹が膨満するのです。
食物繊維をたくさん含む食品は、以下のような食品です。
野菜(とくにタマネギ・ゴボウ・レンコン・筍・キノコ類)
果物(とくにバナナ・リンゴ・ミカン類・白桃・桃・柿)
豆類(大豆・小豆・ヒヨコ豆・レンズ豆・ヒラ豆など)
芋類(サツマイモ・里芋・山芋・菊芋など)
雑穀(玄米・小麦・大麦・ライ麦・ハト麦・稗・粟・キビ・キヌアなど)
こういった食品をたくさん食べるほど、ガスが多く発生します。
豆腐や豆乳をはじめ、枝豆や煮豆、おからやキナコ、厚揚げやがんもどきなどは、すべて「大豆」です。
パンやパスタ、ラーメンや焼ソバ、うどんやそうめん、クッキーやビスケット、カステラやケーキなどは、すべて「小麦」です。
グラノーラは「大麦」です。
タマネギの甘味は「フラクタン」という食物繊維で、消化されないので血糖値は上がりませんが、腸内で発酵してすべてガスになります。フラクタンは、ネギやニラ、ニンニクやラッキョウ、シャロット、バナナ、桃や白桃、コダチトマト、スイカ、ザクロ、西洋アザミ、ランブータン、小麦、大麦、ライ麦、大豆、小豆、黒豆、ヒヨコ豆、ヒラ豆、カシューナッツ、ピスタチオ、アーモンド、ヘーゼルナッツなどに多く含まれています。
ガスが多く発生してお腹がいつもパンパンになっている人たちは、みんな食物繊維が多い食品を摂りすぎているのです。それは、「食物繊維を摂れば腸がきれいになって、腸がきれいになれば血液が浄化されて病気を防げる」と信じているからです。
ところが実は、食物繊維を多く摂れば、ガスで膨満して胃腸の具合が悪くなるのです。
とくにガスが出るのは大腸ですが、大腸にはおよそ1000兆個もの細菌が棲息しているので、膨張して引き伸ばされた腸壁から細菌が血液に侵入しやすくなります。
すると血液中の免疫細胞が、侵入した細菌を退治しようとして「炎症」がおきます。そのため血液中に「炎症性サイトカイン」が増えます。炎症性サイトカインは、「炎症をおこせ!」という免疫細胞のメッセージ物質です。
「炎症をおこせ!」というメッセージが多い血液が全身を循環することで、身体中のあらゆる箇所で炎症がおきやすくなります。そのため刺激に過敏になり、わずかな刺激で、すぐに炎症がおきるようになります。
炎症が関節でおきれば、変形性膝関節症や五十肩やテニスエルボーやリウマチに。
炎症が皮膚でおきれば、皮膚炎や湿疹に。
炎症が鼻や扁桃腺でおきれば、鼻炎や扁桃腺炎(風邪)に。
炎症が耳でおきれば、中耳炎に。
炎症が歯肉でおきれば、歯周病に。
炎症が甲状腺でおきれば、バセドウ病や橋本病に。
炎症が肺や気管支でおきれば、肺炎や気管支炎(喘息)に。
炎症が胃腸でおきれば、胃炎や大腸炎(下痢)に。
炎症が肝臓でおきれば、肝炎に。
炎症がすい臓でおきれば、すい炎に。
炎症が腎臓でおきれば、腎炎に。
炎症が膀胱でおきれば、膀胱炎に。
炎症が脳でおきれば、頭痛やブレインフォグやうつ病に。
このように炎症がおきた部位によって病名と症状が変わるだけで、「炎症」がおきていることに変わりはありません。
炎症は、炎症性サイトカインが多いほど活発になります。
炎症性サイトカインは、腸から細菌が血液に侵入してくるほど増えます。
腸から血液に細菌を侵入させやすくするのは、「腸内ガス」です。ガスで大腸が膨満して腸壁が引き伸ばされるから、細菌が血液に侵入しやすくなるのです。
そして、腸内ガスをもっとも多く出すのは「食物繊維」です。
ですから食物繊維を摂るほど、炎症がおきやすくなるのです。
また腸内ガスは横隔膜を押し上げて、心臓を止めてしまうことさえあるのです。