「16時間断食」は有効か?
「朝食を抜いて、16時間食べない時間をつくるのが良い」というダイエットは正しいのでしょうか? また、空腹になるとオートファジーが活性化する効果はどうなのでしょうか?
16時間断食とオートファジーは無関係
オートファジーとは、細胞内のタンパク質を再利用するメカニズムです。
東京工業大学の大隈良典教授らが、酵母を利用した研究で「細胞が内部の物質を分解して再利用する」という現象を発見し、2016年にノーベル生理学医学賞を受賞されました。
オートファジーは老化予防などの効果が期待されている一方で、まだ未解明なことも多く、東京工業大学のHP にも「期待が高まる一方で、基本メカニズムは依然謎だらけ」と書かれています。[1] ところが、オートファジー理論と16時間断食を関連づけている人たちが多いのです。
たしかに空腹になるとオートファジーが活性化するようですが、オートファジーが活性化することで「健康効果があるのか?」についてはまったく実証されておらず、今のところ不明です。
断食による栄養不足のために、筋肉が分解されて減ってしまいますし、たった1日食べないだけで肝臓の大きさが約7割に縮小してしまいます。それによって肝機能が低下して、かえって健康を損ねることになるでしょう。肝臓に蓄えられるグリコーゲンが3割も減りますから、低血糖になりやすくなるでしょう。
また筋肉が減少すると、低体温や高血糖になることで体力が低下しますから、病弱になるでしょう。
朝食を抜くとどうなるのか?
例えば体重80kgの人が、朝食を抜くとどうなるか計算してみましょう。
まず1日に消費するカロリーは、(軽作業の仕事でハードな運動をしない場合)およそ2400kcalです。1時間に2400÷24時間=100kcal消費していることになります。しかし睡眠中は基礎代謝が2割ほど下がりますから、1時間80kcal消費していることになります。
夜にたっぷり食べて3時間後に寝た場合、寝るまでの3時間で100×3h=300kcal、7時間の睡眠で80×7h=560kcal、合わせて860kcalが10時間で消費されることになります。
食後3~4時間は血液中にブドウ糖がたくさんありますが、そのほとんどは寝るまでに消費されてしまい、睡眠中は主に肝臓から少しずつ放出されて血糖が維持されているのです。しかし、肝臓に蓄えたグリコーゲンは100g(400kcal分)しかありません。400÷80kcal=5時間で枯渇してしまう計算になります。
ですから朝は、必ず低血糖になっているのです。
これは体重80kgの人の例ですが、体重50kgの人でも同じです。
軽作業でハードな運動をしない場合、1日の消費カロリーはおよそ1500kcal。1時間あたり62.5kcalで、睡眠中は50kcal。夕食後3時間で62.5×3=187.5kcal、睡眠7時間で50×7=350kcalで、合計10時間で537.5kcal消費されることになります。
体重50kgの人が肝臓に蓄えられるグリコーゲンはおよそ70g(280kcal)ですから、280÷50kcal=5.6時間で枯渇してしまう計算になります。
このように肝臓に蓄えたグリコーゲンは5~6時間で枯渇してしまうので、朝は必ず低血糖になっているのです。
朝食を食べないと、午前中はずっと低血糖のままです。
グリコーゲンは筋肉にも蓄えられていますが、筋グリコーゲンは筋肉の収縮にしか使えませんから、血液中に放出できません。筋肉にはグリコーゲンがあるので身体は動きますが、脳はブドウ糖が足りないという状態です。
低血糖になると脳や自律神経の機能が低下して、集中力や記憶力や判断力が低下し、不安やイライラが強くなり、悪寒や疲労感や虚脱感といった自律神経失調の症状が出ます。
すると筋肉を分解して、筋タンパクからブドウ糖をつくり出して脳に送ります。これを「糖新生」といいます。
まず筋肉を分解するために、副腎からアドレナリンが分泌されます。睡眠中にアドレナリンが出れば、目が覚めてしまって睡眠不足になります。また血管が収縮して、心臓のポンプ力が強くなって血圧が高くなります。
アドレナリンによって分解された筋肉のタンパク質を、肝臓でブドウ糖に変えて脳に送ります。これを続けていると、筋肉がどんどん減っていきます。
最初に犠牲になるのは、脚の筋肉です。太ももやふくらはぎの筋肉が減っていき、足腰が弱くなります。そのため、腰痛や膝痛が慢性化し、いずれは腰が曲がったり膝が変形したりして満足に歩けなくなります。
脚の次に減っていくのは、肩と胸の筋肉です。肩や胸の筋肉が減ると、重い頭を支える力が弱くなって首痛や肩コリが悪化し、五十肩になりやすくなり、いずれは頚椎が変形して腕の痛みやしびれといった神経障害がおきます。
こういった筋肉の減少は「年齢のせい」だと思われていますが、実はブドウ糖が足りないために「糖新生」が行なわれた結果なのです。歳をとると朝早く目が覚めてしまうのも、食事量や肝臓に蓄えられるグリコーゲンが減少して、早朝に低血糖になってアドレナリンが出るからだと考えられます。
筋肉は減る一方で、脂肪は増えていきます。
空腹になると脳は「飢餓」と判断して、少しでもカロリーを蓄えておこうとするからです。そのため、脂肪が増えていくのです。
肥満に関する米国の研究で、「餓死しても脂肪はたっぷり残っている」ことが明らかになっています。筋肉が減って脂肪におき換われば見た目の太さは変わりませんから、筋肉が痩せ細っているようには見えないでしょう。こういう状態を「サルコペニア肥満」といいます。
朝食を食べないでいると、いずれは全身の筋肉が衰弱して痩せこけるかサルコペニア肥満になるかで、最終的には寝たきりになってしまうでしょう。
朝なぜ食べられないのか?
朝食を食べられないのは、胃腸が悪いからです。「食べないほうが体調がいい」と言っている人たちは、胃腸が弱いのです。胃腸が弱くて食べると具合が悪くなるから、食べないほうがマシというだけです。胃腸を休ませても丈夫になるわけではなく、「怠けさせている」だけです。使わないと衰える「廃用性萎縮」によってますます胃腸が弱くなって、さらに食べられなくなっていきます。
胃腸が弱いのは食べすぎているからではなく、胃腸にダメージを与えるものを食べているからです。つまり、玄米や小麦や大豆や野菜や果物や砂糖などを摂りすぎていることで、リーキーガットになり腸内ガスが過剰に発生して胃腸が悪くなるのです。
[1]https://www.titech.ac.jp/news/2016/036467