偏頭痛は「脳の血管が拡張」しておきる

コメカミがズキンズキンと脈打って頭が痛くなる「偏頭痛」。

ひとたび発作がおきると激しい頭痛だけでなく吐き気がして何も食べられなくなり、5時間くらいは何もできなくなります。

しかし発作が治まれば、何事もなかったかのように症状がなくなってしまいます。

偏頭痛の人は、脳のなかで一体どんなことがおきているのでしょうか?

 

偏頭痛は「脳血管の拡張」によっておきる

偏頭痛の特徴は、コメカミが心臓の鼓動に合わせてズキンズキンと脈打つことです。

これは、脳の血管の拡張によっておきます。

なぜ、脳の血管が拡張するのでしょうか?

そのしくみは、次のように解明されています。

ストレスから開放されてホッとしたときや、低気圧の日、生理前などに、脳のセロトニンが減少します。

すると三叉神経が興奮して、三叉神経からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)とプロスタグランジンが放出されます。CGRPによって脳の血管が拡張し、プロスタグランジンが炎症と痛みを引きおこします。まとめると次のようになります。

 

<脳内セロトニン減少→三叉神経興奮→CGRP+プロスタグランジン放出→脳血管拡張→炎症→偏頭痛>

 

閃輝暗転は「脳の興奮の拡散」

偏頭痛の発作がおきる前兆として、雷のようなギザギザの光が見える人もいます。これは目の異常ではなく、脳の興奮によっておきます。

まず、脳の視覚中枢(後頭葉)の神経細胞にカルシウムが勢いよく流入します。その神経細胞の興奮が、徐々に周囲に波紋のように拡がっていき、その興奮の拡散が「閃光」として見えるのです。

ハーバード大学のモスコウィッツ博士の研究チームは、閃輝暗転の最中の脳血流の連続的な変化を確認しています。閃輝暗転が始まると、まず後頭葉の一部で血流が増加し、その直後に血流が低下し、そのまま低下した状態が続くということです。

ある女性患者の後頭葉の血流は、閃輝暗転の最中の10分間に18%低下し、その後おきた頭痛の最中には正常レベルより26%も増加したといいます。

閃輝暗転がおきているときは、後頭葉の血流が減少しているのです。

 

健康に良いことが、偏頭痛には逆効果

通常は健康に良いといわれていることが、偏頭痛の人にとっては逆効果になります。

例えば、オリーヴオイルやカカオや赤ワインのポリフェノール、ゴマ(セサミン)、大豆(イソフラボン)などといった成分は血管を拡張させる作用があるため、偏頭痛の人が摂ると悪化します。炭酸も脳の血管を拡張させるので、炭酸飲料を飲むと悪化します。カフェインは血管を収縮させますが、脳を興奮させるのでコーヒーや紅茶、緑茶などを飲むと悪化するでしょう。また、入浴や運動なども血管が拡張するので、偏頭痛の人は悪化するでしょう。

このように通常は血流が良くなって抗酸化作用があるから健康に良いと言われていることが、偏頭痛の人にとっては逆効果になってしまうのです。また、首や肩を強く押したり揉んだりすると確実に悪化しますし、首を温めても悪化します。反対に、首や額を冷やすと効果的です。

また、低血糖になると偏頭痛の発作がおきやすくなります

低血糖になると、脳にブドウ糖を送るため、筋肉を分解して筋タンパクをブドウ糖につくり変えます。これを「糖新生」といいます。筋肉を分解するためにアドレナリンが分泌されるので、脳が興奮します。

脳が興奮すると、ドーパミンが分泌されます。するとドーパミンによって嘔吐中枢(延髄)が働いて、吐き気がおきます

アドレナリンの分泌を抑えるためには低血糖にならないように、食事と食事の間隔をあまり長くあけないことが大事です。

 

抗利尿ホルモンと偏頭痛の関連

むくんで体重が増えると、偏頭痛がおきるという人もいます。これは一体、どういうことでしょうか?

中脳でセロトニンの生成が減少すると、視床下部(自律神経の中枢)から脳下垂体(ホルモンの中枢)に情報が伝わって、抗利尿ホルモン(バゾプレッシン)が分泌されます。すると尿量が減少して、全身がむくみます。しかし偏頭痛が治まると、今度は抗利尿ホルモンが減って、尿が大量に出ます。

つまり、「むくむから偏頭痛になる」のではなく、「偏頭痛によって抗利尿ホルモンが分泌されるから、むくむ」のです。

 

偏頭痛の特効薬「トリプタン」

オーストラリアの神経病学の父といわれるジェイムズ・ランス博士は、1960年に、「脳の血管が拡張して偏頭痛がおきるのは、脳内セロトニンが減少するからである」と発表しました。

そして1965年に、試験的にセロトニンの静脈注射を偏頭痛の患者さんに行ないました。その結果、たしかに偏頭痛はなくなったものの、注射の直後から顔面蒼白になり、強い頻脈、発汗、ふるえ、興奮状態、血圧上昇などが現われました。あまりに副作用が多かったことから、「セロトニンの作用が多岐にわたり、血圧、体温、発汗、脈拍に影響し、ふるえや痙攣、精神症状などの症状がセロトニンによっておきる」ことが明らかになりました。

こうして「脳の血管だけに作用するセロトニンがあればよい」ことが分かって、多くの科学者たちが競って「脳の血管にだけ作用するセロトニン様の物質」を探し求めました。その結果、発見されたのが「トリプタン」です。

偏頭痛の発作がおきたら、すぐにトリプタンを飲めば脳の血管拡張が治まります

ところが、飲むのが遅れると吐き気がしてきて、薬を飲んでも胃腸から吸収されなくなり、吐き出してしまうこともあります。ですから、発作がおきたらなるべく早くトリプタンを飲むことです。

 

薬物乱用頭痛を防ぐには

ちなみに、バッファリンやイブクイックなどといった痛み止めは、プロスタグランジンを抑えることで痛みが軽減しますが、CGRPは抑えないので脳の血管拡張は治まりません。

また消炎成分が胃炎や胃潰瘍の原因となり、リーキーガットを助長させてしまいます。そうして胃腸が悪くなると血液中の炎症性サイトカインが増えることで脳が興奮しますから、偏頭痛がおきやすくなります。そして、何十年も飲み続けていると「薬物乱用頭痛」になり、慢性偏頭痛になってしまいます。そうなると痛み止めが効かなくなるので、とても困ったことになります。

そんなことにならないためには、偏頭痛がおきたらすぐにトリプタンを飲むことです。

しかしトリプタンも、「予防のために飲んでおく」のはNGです。発作がおきていないときにもトリプタンを飲んでいると、脳の血管を拡張させるCGRPが通常より減少します。すると脳血管のCGRP受容体が増えて、より過敏になるため、さらに偏頭痛の頻度が高まってしまいます。

 

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