筋肉が増える食事

筋肉を増やすには「筋トレ」と考える人が多いですが、実は筋トレよりも大事なのは「食事」です。しかし、「タンパク質をたくさん摂ればいい」というわけではありません。

 

もっとも必要なのは「炭水化物」

「筋肉を増やすには、タンパク質をたくさん摂らなければいけない」と言われています。

しかし、タンパク質をいくら摂っても、ご飯を食べる量が足りないと筋肉は増えません

また、タンパク質を過剰に摂り続けると、肝臓や腎臓が悪くなってしまいます。タンパク質の過剰とは、体重1kgあたり2g以上を言います。実際ボディビルダーのなかには、体重1kgあたり3gや4gも摂り続けて、肝臓や腎臓を壊してしまう人が少なくありません。

実は、筋肉を増やすためにもっとも必要なのは、タンパク質より炭水化物(糖質)なのです! 炭水化物は、ブドウ糖がたくさんつながったもので、摂取すると消化酵素によって分解されてブドウ糖になって腸から吸収されます。血液中のブドウ糖は「血糖」といいます。つまり、炭水化物→ブドウ糖→血糖となるわけです。そして血糖は、肝臓と筋肉に「グリコーゲン」の形(ブドウ糖+水)で蓄えられます。

なぜブドウ糖が、筋肉を増やすために必要なのでしょうか?

 

一つ目の理由は、『筋肉のエネルギー源』だからです。筋肉は「グリコーゲン」として蓄えたブドウ糖を、力を出す(収縮する)エネルギーとして使っています。

2002年のアーカンソー大学の研究で、「筋肉トレーニングで使われるエネルギー産生の80%以上は、炭水化物に由来する」ことが明らかになっています。日常生活の動作や肉体労働はもちろん、筋トレでさえ、もっとも消費されるエネルギーはブドウ糖なのです。

 

二つ目の理由は、ブドウ糖が不足すると『筋タンパクが分解される』からです。

グリコーゲンが不足すると、エネルギーセンサーであるAMPK(Activated protein kinase)が強く働いてタンパク質をエネルギーとして使ってしまうため、筋タンパクが分解されていきます。筋肉をつくるための材料であるタンパク質を、エネルギーとして燃やしてしまうため、筋肉が減ってしまうのです。

反対にグリコーゲンが十分にあれば、AMPKの働きが抑えられてタンパク質をエネルギーとして使われなくなるので、筋タンパクが合成されていきます。

 

三つ目の理由は、炭水化物の摂取によって『テストステロン(男性ホルモン)の分泌が増える』からです。

1987年のアンダーソン教授の論文(Diet-hormone interactions: protein/carbohydrate ratio alters reciprocally the plasma levels of testosterone and cortisol and their respective binding globulins in man)によれば、高炭水化物の摂取と低炭水化物の摂取によって、テストステロン濃度に大きな違いがみられました。高炭水化物食ではテストステロン濃度が468であったのに対して、低炭水化物食では371で、炭水化物の摂取によってテストステロン濃度が上がることが明らかになっています。

テストステロンは筋肉のタンパク合成を増加させ、タンパク分解を抑える働きがあり、さらにテストステロンによって筋肥大に重要なインスリン、成長ホルモン、筋衛生細胞も増えます。つまり、筋肉を増やすにはテストステロンが必要で、その分泌を促すには炭水化物をしっかり摂らなければいけないということです。

 

実際に、炭水化物の摂取量が少ないと、筋トレをしても筋肉が増えないどころか逆に減ってしまうことが明らかになっています。

2018年のウェールズ大学の研究で、筋トレを行なっている男性を対象に、総カロリーの55%を炭水化物で摂取する高炭水化物群と、1日42gほどの糖質しか摂取しない低炭水化物群に分けて、8週間の追跡調査を行ない、筋肥大にどのくらい差が出るのかを調べました。(タンパク質は両群とも体重1kgあたり2g)

結果は、高炭水化物群では筋肉が1.3kg増えたのに対して、低炭水化物群ではわずかに減少しました。タンパク質を十分に摂っていても、炭水化物が足りなれば筋肉が減ってしまうのです。

 

筋肉がもっとも増える黄金比

スポーツ栄養学では、筋肉がもっとも発達する『糖質とタンパク質の黄金比』が明らかになっています。

その黄金比は、『糖質3:タンパク質1』です。

毎日このバランスで食事していれば、筋肉が自ずと増えていきます。

なぜ糖質が、タンパク質の3倍も必要なのでしょうか?

それは、タンパク質から筋肉を作るには「インスリン」が必要だからです。インスリンを分泌させるには、糖質を摂取する必要があるのです。

 

もし糖質が足りないと、せっかく摂取したタンパク質が排泄されてしまいます。タンパク質には、窒素が含まれています。窒素は血液中でアンモニアになりますが、そのまま排泄されると尿路がただれてしまうので、肝臓で尿素に変えてから尿で排泄します。

つまり、排泄する尿素が多いほど肝臓や腎臓に負担がかかるのです。

したがって、『糖質制限+高タンパク』という食事は最悪で、何年も続けると肝臓や腎臓が悪くなってしまいます。

 

ブドウ糖とタンパク質は、どのぐらい摂取すればよいのか?

炭水化物はご飯やパンや麺、豆類や芋類などから摂取できますが、リーキーガットにならず腸内ガスも発生しないのは、『白米のご飯』です。つまり、ご飯がもっとも腸にやさしいブドウ糖の摂取源なのです。

筋肉量は、ご飯の摂取量によって決まる」といっても過言ではないと思います。

野球界のスーパースターとなった大谷翔平選手が、高校時代のノルマが1日『ドンブリ飯10杯』であったことは有名です。ご飯をたくさん食べないと、あれだけ見事な体格にはなれないということです。甲子園を目指している高校野球部は、1日『ドンブリ飯8杯』をノルマにしているようです。ご飯をあまり食べないと、身体が大きくならないからです。

実際、筋肉を増やすには、どのぐらいの量を摂ればよいのでしょうか?

2011年にゲーリースレタ教授が発表した「炭水化物量に関するガイドライン」(Nutrition guidelines for strength sports: sprinting, weightlifting, throwing events, and bodybuilding)で、ボディビルダーを含む筋力系アスリートに対する推奨量が明らかにされています。そのガイドラインによると、もっともハードな筋力系アスリートは体重1kgあたり4~7g必要で、筋肉を増やすには体重1kgあたり最低3gは必要ということです。

体重の3倍以上の炭水化物(ブドウ糖)が、筋肉増強には欠かせないのです。

 

例えば体重70kgの人であれば、70kg×3g=210gが「ブドウ糖の必要量」です。

ご飯の糖質量は約37%ですから、ご飯に換算すると210g÷37×100≒567gとなります。茶碗1杯は160gですから、567g÷160g≒3.5杯となります。つまり、茶碗3杯半が「ご飯の最低必要量」となります。

 

タンパク質は、ブドウ糖の3分の一が適量です。

ブドウ糖の必要量が210gならば、210g÷3≒70gが「タンパク質の必要量」です。

肉や魚や卵に含まれるタンパク質は17~25%ですから、平均22.5%として4.5倍すれば食品の必要量が求められます。すると、70g×4.5=315gが「肉や魚や卵の必要量」となります。1日3食ならば、1食あたり平均105gの肉か魚か卵を食べれば、1日に必要なタンパク質が摂れることになります。

これは体重70kgの人の例ですから、自分の体重で計算して必要量を求めましょう!

 

もし、必要量が食べられなければ、足りない分をプロティンで補うとよいでしょう。

大豆プロティン、BCAA(分岐鎖アミノ酸)、EAA(必須アミノ酸)、HMB(ロイシン代謝産物)、クレアチンなどといった様々な筋肉増強のためのサプリメントが市販されていますが、もっとも筋肉を増やす効果が高いのは、『ホエイプロティン』です。ただし、果糖や人工甘味料が入った製品は避けて、ホエイ100%の製品を選びましょう。熱に弱いので、水に溶かして飲むことが大事です。

ホエイは牛乳から作られますが、アレルギーの原因になる乳タンパク=カゼインは含まれていません。牛乳に含まれるカゼインはチーズに凝縮されて、残った絞り汁がホエイ(乳清)です。ホエイに含まれるラクトグロブリン、ラクトアルブミン、ラクトフェリンといったタンパク質には、筋肉の増強作用だけでなく、免疫力を正常に保つ働きもあります。

 

ブドウ糖とタンパク質は、いつ摂取すればいいのか?

運動するときには、筋肉のグリコーゲンが満タンになっていることが理想的です。

それには、『運動する1時間前』にご飯メインの食事をすればよいのです。

もし食事ができなければ、ブドウ糖を水かお湯に溶かして飲むだけでもよいでしょう。

 

一方、タンパク質は『筋トレ後』に摂るのが理想的です。

2001年に発表された論文(levenhagen DK et al)では、「健常人の摂取タイミングによる脚筋肉タンパクの分解と合成の割合による筋肉量の変化」について評価しています。

運動したときにタンパク質と糖質を摂取しなかった場合、タンパク質の分解量が合成量より多くなり、明らかに筋肉が減っていくことが示されています。

一方、運動直後にタンパク質と糖質を摂取すると、分解量より合成量が上回り、筋タンパクが増加することが示されています。

しかし、運動の3時間後にタンパク質と糖質を摂取すると、筋タンパクは減少することが示されています。

アスリートではなく高齢者24名を対象にした研究でも、「筋トレ直後の食事が筋肉を増強させる」という報告があります。(Esmarck et al, 2001)

12週間にわたって、筋トレ直後と2時間後にタンパク質10gを含むサプリメントを摂取してもらったところ、筋トレ直後では有意に大腿四頭筋が増加しましたが、2時間後に摂取しても筋肉量に変化はみられませんでした。

また、ラットを用いた研究(Suzuki M et al, 2001)で、8週間にわたって、「筋トレ直後と4時間後の食事摂取と、筋肉量および脂肪量」を調べています。

この研究で、運動直後に摂取すると筋肉量が増えること、そして、運動4時間後に食事を摂取すると筋肉は増えず脂肪が増えてしまうことが示されています。

これらの研究から、タンパク質は運動直後に摂取すれば筋肉が増加し、2時間後に摂取しても筋肉は増えず、4時間後では脂肪が増えてしまうことが分かります。

しかし現実には、筋トレ直後に食事を摂るのは難しいため、直後(運動後15分以内)にプロティン(+ブドウ糖)を飲んで、2時間後に食事をすることが望ましいのです。

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