塩は、肥満と高血圧を引きおこす
「良い塩ならば、いくら摂っても大丈夫。むしろミネラル不足を解消できるから、多めに摂ったほうがよい」という説は、正しいのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。どんなに良い塩でも、たくさん摂れば確実に身体を壊します。塩で胃の粘膜が荒れますから、胃炎や胃酸の逆流が悪化して胃ガンのリスクを高まります。また太って血圧が高くなることによって血管が硬くなり、心臓病や脳梗塞などのリスクも増大します。
塩を摂ると、なぜ太るのか?
身体の水分はすべて塩水で、その塩濃度は0.9%です。ということは、血液1リットル中に塩(塩化ナトリウム)が9gあるということです。
ですから塩を9g摂れば、水を1リットル増やさないと塩濃度を0.9%に保てません。だから塩辛いものを食べると、喉が渇いて水を飲みたくなるのです。その結果塩を9g摂ると、血液量が1リットル増えて、体重が1キロ増えます。
例えば、ラーメン屋でラーメンを食べてスープをすべて飲んでしまうと、塩を約9g摂ることになります。その塩が排出されるのに、健康な人でも1週間ほどかかります。
もし毎日これを続ければ、あっという間に何十キロも太ってしまいます。
ラーメンでなくても、塩分をたくさん摂っていれば同じことがおきます。
そして血液量が増えた分だけ、心臓はより強くポンプしなければいけないので、血圧が高くなるのです。
天日塩とか自然塩とか岩塩といった良い塩であっても、もっとも多い成分は塩化ナトリウムですから、まったく同じです。「ミネラルの種類が多い良い塩ならば、いくら摂っても大丈夫」というのは間違いで、どんな良い塩でも摂りすぎれば体重が増えていき、血圧が上がるのです。
血圧が上がると、血管の壁にかかる圧力が高くなるため、血管が硬くなっていきます。また「血管の壁の機能」を調べるFMD(血流依存性血管拡張反応)検査で、『塩分量が多い食事は血管の壁の機能を低下させる』ことが証明されています。(”Endothelial function is impaired after a high-salt meal in healthy subjects” Dickinson KM, et al., Am J Clin Nutr, 93(3):500-505, 2011)
適切な塩分摂取量
それでは、どのくらいの量を摂ると「摂りすぎ」になるのでしょうか?
1950~60年代には、日本人は一人1日あたり塩分を15~20g摂取していました。とりわけ多かったのは東北地方で、25g以上摂っていました。昔は冷蔵庫が普及していなかったため、何でも塩漬けにして保存していたことをはじめ、寒冷や、田植えや除草で頭を下げた労働といった要因も加わって、高血圧による脳出血が非常に多かったのです。
そういった事態を改善するために、1979年に1日10g以下に抑えることが目標とされ、2020年には成人男性は7.5g未満、成人女性は6.5g未満に改訂されました。
2017年の「国民健康・栄養調査」によると、塩分摂取量は男性が10.8g、女性が9.1gとだいぶ減ってはいますが、摂取基準には至ってはいません。
厚生労働省の基準によれば、男性7.5g以上、女性6.5g以上で「摂りすぎ」ということになります。
塩の排出力は、遺伝子で決まる
ところが、塩をたくさん摂っても血圧が高くならない人もいます。実は、塩の摂取によって血圧が上がるかどうかは遺伝子で決まることが明らかになっています。塩で血圧が上がりやすいことを「食塩感受性が高い」といいます。
食塩感受性が高い人は、日本人全体の約20%しかいないのです。そういう人たちは、摂取した塩が排出されにくいのです。
血液中の過剰な塩(塩化ナトリウム)は、主に腎臓の糸球体でろ過されますが、その大半は尿細管で再吸収されて血液に戻されます。尿細管でどのくらいのナトリウムを再吸収するかを決めるのは、副腎から分泌される「アルドステロン」というホルモンです。アルドステロンが多いほどナトリウムが多く再吸収されるので、ナトリウムが排出されにくいのです。(アルドステロン量は血液検査で調べられます)
食塩感受性が高い人たちは、遺伝的にアルドステロンが多く出る体質と考えられます。
また、ナトリウムが再吸収されるのと引き換えに、カリウムが排出されます。つまり、ナトリウムとカリウムが交換されるのです。そのためアルドステロンが多い人は、大抵、低カリウムになっています。
低カリウムになると筋力が低下しますから、疲れやすくなります。ひどくなると、手足の筋肉が痙攣(テタニー)をおこします。また胃腸の筋肉も弛緩して動きが弱くなり(アトニー)、便秘しやすくなります。
遺伝的に塩が排出されにくい人たちは、どうすればよいでしょうか?
まず「減塩」することが大事です。男性は1日7g、女性は1日6gが理想的です。
しかし、ただ減塩するだけではなかなか改善はしないでしょう。
塩9g(血液1リットル分)を排出するには、「健康な人でも」1週間はかかります。それが高血圧によって腎機能がやや低下すれば、もっと多くの日数がかかります。また、何十年も塩分が多い食生活を続けてきて、塩と水分が50キロ分も溜まって身体全体がパンパンに膨張している状態であれば、自然に排出されるのにおよそ1年もかかる計算になります。
したがって、こういう場合は利尿剤を飲めばよいのです。ただし、低カリウムを助長しないために「カリウム保持性利尿剤」を選ぶことが大事です。
併せて、カリウムをサプリメントで補うとナトリウムの排出を促せます。
カリウムと同量のナトリウムが排出されますから、ナトリウムと同量のカリウムを摂取することが望ましいのです。
食事でも、海藻やジャガイモ、アボカド、ブロッコリー、キャベツなどからカリウムを摂取するとよいでしょう。これらはガスを出しにくく、カリウムとビタミンCも摂取できます。
果物にはカリウムが豊富に含まれていますが、果糖が多いので逆効果になります。果糖は肝臓で中性脂肪に変わり、体脂肪を増やすことになります。するとインスリン抵抗性が上がって、高血糖になりやすくなります。高血糖になると、血糖値を下げるために大量のインスリンが分泌されます。すると脂肪がどんどん脂肪組織に吸収されていって、体脂肪が増えていきます。
野菜にもカリウムが豊富ですが、食物繊維が多いので、腸内ガスがたくさん発生します。するとお腹が膨満して、腹痛や胃酸の逆流などをおこしやすくなります。身体全体が水圧でパンパンに膨張しているうえに、腸もガスで膨満するので、きわめて苦しい状態になってしまいます。
つまり、野菜や果物をいくらたくさん食べても改善しないどころか、かえって肥満が助長して胃腸も悪くなってしまうのです。
食品に含まれる塩分量
私たちが日常食べる食品には、どのくらい塩分が含まれているのでしょうか?
もっとも塩分が多い食品は、「カップ麺とインスタントラーメン」です。これらは1食分に約5~6gも入っています。
その他、塩分が多い食品を以下にまとめておきましょう。
<塩分含有量>
味噌汁1杯:約1.2g
コーンスープ/ミネストローネ/クラムチャウダー1杯:約1.4g
梅干(大粒1個):約1g
食パン(6枚切り2枚):約1.5g
茹でパスタ1食分(無調味):約1.5g
ざるソバ1食分:約3g
親子丼1食分:約3.4g
ハム1枚(10g):約0.3g
ベーコン(100g):2~2.5g
塩サバ(切り身60g):約1g、(半身150g):約2.7g
銀鮭(生100g):0.1g
塩鮭(甘口100g):5~8g(辛口100g):8g以上
糠漬け(100g=きゅうり1本分):5.3g
松前漬け(100g):5.2g
福神漬け(100g):5.1g
塩漬け(100g=カブくし切り13枚分):4.3g
奈良漬け(100g=10枚分):4.3g
しば漬け(100g=50個分):4.1g
たくあん(100g=13切れ分):3.3g
べったら漬け(100g=6枚分):3g
らっきょう甘酢漬け(100g=17個分):2.2g
ポテトチップス(1袋85g):0.8g
無理なく塩分を減らせる秘訣
これらの塩分含有量と、自分が食べている量から、毎日どれくらいの塩分を摂取しているのか計算してみると、意外と多くて愕然とするかもしれません。
そこで、「塩分を減らせる秘訣」を2つ教えましょう!
一つは、『おかずの品数を減らす』ことです。
おかずの品数は2品あれば十分です。例えば、肉か魚か卵を1品と、ブロッコリーかアボカドかキャベツを1品といった感じです。
また、塩鮭などの塩蔵食品の塩は、塩濃度1~1.5%の塩水に4~5時間浸けておけば抜けます。(水100gに塩1gを溶かせば1%塩水)
もう一つは、調理で『味付けをしない』ことです。
肉や魚をただ焼くだけ、煮るだけ、蒸すだけにして、味付けは各自、食べるときにすればよいのです。例えば、減塩醤油やポン酢、煎り酒などを少しかけるだけで十分おいしくいただけます。塩コショウも自分でかければ、量を調整できます。
ちなみに欧米では、それが当たり前です。メインは肉とジャガイモですが、肉はオーブンで焼くだけ、ジャガイモは丸ごと茹でるだけです。それに硬いパンと、ビールかワイン(またはスープ)といった内容が基本です。