肝臓を守る秘訣
肝臓が悪くなる原因として、まず思い浮かべるのはお酒でしょう。
しかし、お酒が原因で肝炎や肝臓ガンになるケースは意外と少なく、10年以上にわたって大量に飲酒を続けてもアルコールで肝硬変になる確率は約20%足らずで、アルコールによる肝臓ガンはわずか2%程度です。
つまり肝臓が悪くなる原因の大半は、アルコールではないのです。
シジミやウコンが肝臓病を悪化させる
「シジミやウコンは肝臓に良い」といわれていますが、肝臓病の人にとっては逆に悪化させる危険性が大きいのです。シジミもウコンも鉄分が豊富で、鉄が肝臓病を悪化させてしまうからです。とくにC型肝炎の人は肝臓に鉄が溜まりやすく、鉄が多く溜まるほど繊維化が早く進んでいき、繊維化が進めば肝硬変になり、発ガンリスクも上がります。そのため慢性肝炎の治療として、肝臓から鉄を取り除く「除鉄」が行なわれています。
ちなみに肝臓に溜まっている鉄は、血液検査の「フェリチン」の数値で確認できます。(フェリチンは、鉄を貯蔵するタンパク質)
ほかにも鉄分が豊富に含まれている食品として、レバーや魚の内臓(煮干や内臓も一緒に食べるイワシや鮎など)、青野菜や青汁、ココアやチョコレート、ドライフルーツ、納豆やトウモロコシなどがあげられます。
鉄の1日あたりの基準摂取量は10~12㎎とされていますが、肝臓病の人は7mg以下に抑えることが大事です。
ビタミンCも鉄の吸収を促すので、サプリメントで多量に摂らないほうがいいでしょう。
ただし、鉄が良くないのは肝機能に異常がある人に限っての話です。
また、赤身の肉や魚に含まれる「ヘム鉄」であれば肝臓に溜まりにくいので大丈夫です。
急激に減量すると、脂肪肝になる!
「太った女性が痩せてきれいなる」という美人コンテストで、栗原 毅医師(慶應義塾大学特任教授・栗原クリニック東京日本橋院長)が、コンテスト前後で出場者の肝機能を調べたところ、入賞者の全員が脂肪肝になっていたといいます。
1ヶ月に3キロ以上も体重を減らす極端なダイエットをすると、肝臓の中性脂肪が不足するため、身体のあらゆる部位から中性脂肪を集めて肝臓に送り込むからです。こうした症状は「低栄養性脂肪肝」(通称「ダイエット脂肪肝」)と呼ばれています。
健康な人でも肝臓には3%程度の脂肪が溜まっていますが、30%を超えると「脂肪肝」といわれる状態になります。
食べ過ぎと運動不足でも脂肪肝になりますが、あまりに栄養が不足しても肝臓に脂肪が溜まっていくのです。とくにタンパク質が不足すると、脂肪肝になります。なぜかというと、肝臓から脂肪を血液に送り出すには、タンパク質に包まれた「リポタンパク」になる必要があるからです。中性脂肪もコレステロール(HDL、LDL)もすべてリポタンパクの形で血液中に存在していて、大きさが違うだけです。タンパク質が足りないと、脂肪が肝臓に溜まったままになるのです。
果物と甘いお菓子を多く食べると、脂肪肝になる!
果物や砂糖に含まれている「果糖」は、腸から吸収されると肝臓でほぼ100%中性脂肪に変換されます。(砂糖は、ブドウ糖と果糖が1分子ずつ結合した二糖)
ですから、果物や果汁、砂糖や果糖ブドウ糖液糖がたっぷり入った甘いドリンク、スイーツなどを毎日摂り続けていると、肝臓にどんどん脂肪が溜まっていきます。
つまり、脂肪の元は「果糖」なのです。
脂肪肝の主な原因
- 急激なダイエット(超低カロリー/低タンパク質の食事)
- 果糖の大量摂取
脂肪肝になると、高血糖になる!
脂肪肝になると、肝臓に溜まった脂肪から「炎症性サイトカイン」が放出されます。
炎症性サイトカインが増えるほど、インスリン抵抗性が上がります。つまり、血液中のブドウ糖が細胞に入りにくくなるのです。その結果、「高血糖」になりやすくなります。
高血糖になると血管がダメージを受けますから、身体は急いで血糖を下げようとして、すい臓からインスリンを大量に分泌します。すると、血糖が一気に下がって「低血糖」になります。その結果、猛烈なだるさや虚脱感、悪寒などを感じたり、イライラしたり、気分が落ち込んだりします。
こうなると、異常に甘いものが欲しくなります。そして、スイーツを食べたり甘いドリンクを飲んだりすると、とりあえず落ちつきます。
しかし、こういったことをくり返していると肝臓に脂肪がどんどん溜まっていって、インスリン抵抗性が上がっていきます。そして、いずれは糖尿病になってしまうのです。
また、肝臓に溜まった脂肪から放出される炎症性サイトカインと酸化ストレスによって、肝炎になってしまうこともあります。それがNASH(ナッシュ:Non Alcoholic Steato Hepatitis:非アルコール性脂肪性肝炎)です。
肝臓ガンの原因の90%は肝炎ウイルス
肝臓ガンは、肝炎→肝硬変→肝臓ガンと進行して発症しますが、その原因の90%を占めるのが「肝炎ウイルス」で、A型とB型とC型とE型の4種類があります。
A型肝炎ウイルスは、経口感染による急性肝炎を引きおこしますが、通常1~2ヶ月で治ります。一度A型肝炎になって治ると、抗体(HA抗体)ができて永久免疫がつくので、二度と罹りません。
感染源は生水や生牡蠣などの貝類が多く、アジアやアフリカ、南米などの旅行で感染することが多いです。感染すると、38℃以上の高熱や関節痛、全身の倦怠感、食欲不振、吐き気などが現れ、熱やだるさが治まる頃には黄疸が出て2~4週間続きます。
B型肝炎ウイルスの感染ルートは、母子感染と成人感染の2つです。
母子感染は、出産時に産道を通るときに母体の血液にさらされることでおきます。母子感染の90%以上はHBe抗原陽性の無症候性キャリアとなって、ある時期までは何の症状もないまま過ごせますが、思春期になると免疫がB型肝炎ウイルスに感染した肝細胞を攻撃し始めて肝炎を発症します。発症しても症状はとても軽いことが多く、大半の人は数年で自然に治ってしまいます。しかしウイルスは残っているので、キャリアのままです。
B型肝炎ウイルスのキャリアは全国に約150万人いて、そのうちの大半は自分がキャリアと知らないまま暮らしていると言われています。
一方、成人感染の場合はほとんどが一過性で、8割の人は症状もなく自然に治ってしまいます。そして一度治ると永久免疫ができるので、二度とB型肝炎に罹りません。しかし1割くらいの人は急性肝炎になり、そのごく一部は劇症肝炎や肝硬変、肝臓ガンになってしまいます。
成人感染のほとんどは、性交渉による感染といわれています。防ぐには、B型肝炎ワクチン(HBワクチン)を打つことです。
治療法には、「エンテカビル(製品名:バラクルード)」などの抗ウイルス薬の服用と、「インターフェロン」の注射があります。
ウイルス性肝炎のなかでもっとも多いのが、C型肝炎です。主に血液製剤が原因で感染し、感染者の8割が慢性肝炎になり、その大半が肝硬変になると言われています。
C型肝炎の治療法は、「インターフェロン」の注射しかありません。インターフェロンは、ウイルスを完全に除去できる可能性がある優れた治療法です。
コーヒーは、肝炎を予防する
コーヒーには抗ウイルス作用があり、肝臓を守る効果もあります。
国立がんセンター予防研究部長の津金昌一郎氏が率いる厚生労働省の研究班が1990年から約10年間にわたって、40歳から69歳の男女およそ9万人を追跡調査した結果、「コーヒーを毎日5杯以上飲む人は、肝臓ガンの発症率が4分の1に下がった」といいます。
大阪府立医大の研究でも、C型肝炎ウイルスの陽性だった人を追跡調査したところ、「コーヒーを飲む人と飲まない人で肝臓ガンの発症率に大きな差がある」ことが分かりました。コーヒーの抗ウイルス作用によって、C型肝炎が肝臓ガンに進行するのを防いでいることが明らかになりました。
「コーヒーを毎日飲んでいると、アルコール性肝硬変になる率も下がる」という疫学調査の結果もあります。
また、2005年に国立がんセンターから「コーヒーは肝臓ガンを予防する」という論文が発表されています。
さらにその後の研究で、肝臓を保護する効果の半分以上はカフェインによるものだと分りました。風邪薬(総合感冒薬)や滋養強壮ドリンクに無水カフェインが入っているのは、カフェインに抗炎症作用や抗ウイルス作用があるからです。
カフェインは緑茶にも含まれていますが、緑茶をたくさん飲んでも肝臓ガンを抑える作用はないようです。
コーヒーが肝臓ガンを抑える効果は、クロロゲン酸によるものと考えられます。
クロロゲン酸は体内でカフェー酸に変わって糖の吸収を遅くすることによって、食後高血糖を防ぐ効果があります。それに加えて、カフェインによる強力な抗炎症作用によってインスリンを分泌するすい臓を守ることで、糖尿病を予防します。
つまり、コーヒーは肝臓病の特効薬であり、高血糖や糖尿病の予防薬でもあるのです。
適度の飲酒は、脂肪肝を防ぐ
実に意外なことに、『アルコールが脂肪肝の予防・治療に有益』という研究があります。
「1日に60gくらいまでなら脂肪肝のリスクにはならず、内臓脂肪型肥満の男性でも飲酒が直接肥満に結びつかない」ということです。
さらに、「1日あたり12.6~37.8g程度のアルコールはインスリン抵抗性を改善し、糖尿病のリスクを低下させる」ことも報告されています。
例えばビールのアルコール度数は5%ですから、500mlを2本飲んでもアルコール量は50gです。ちなみにビールには、赤血球の膜をしなやかにして、その変形能力を高める効果があります。赤血球が柔軟で変形能力が高いほど毛細血管に入っていきやすいので、血流が良くなります。また、胆汁の分泌を促すことによって胃腸の働きを高めますし、ビタミンB群も豊富です。
焼酎(乙類)には血栓を溶かす働きがあるので、脳梗塞や心筋梗塞を防ぐ効果があります。
このようにアルコールは肝臓に悪いわけではなく、適量であればインスリン抵抗性や血流や胃腸の機能を改善して、脂肪肝や内臓脂肪型肥満の予防と治療にも有益なのです。
ちなみに胃腸から吸収されたアルコールは、肝臓でアセトアルデヒド→酢酸と分解されて、最後は水と二酸化炭素になります。二酸化炭素は呼気で排泄され、水は尿から排泄されます。つまり、アルコールのカロリーはエネルギーとして使われることはなく、脂肪になることもありません。すべて水と二酸化炭素になって排出されてしまうのです。
その分解に必要なのは、アルコール分解酵素とアセトアルデヒド分解酵素です。
お酒が強い人は、両方とも十分に出るのです。
飲むと顔が真っ赤になる人は、アルコール分解酵素は出るけれど、アセトアルデヒド分解酵素はあまり出ない人です。
まったく飲めない人は、両方とも出ないのです。
この2つの分解酵素が出るかどうかは肝機能の強さとは関係なく、遺伝子によって決まります。ですから、飲めない人が無理して飲む必要はありません。アセトアルデヒドは炎症や発ガンの誘因になりますから、真っ赤になる人は多くは飲まないほうがいいでしょう。
お酒で避けるべきは、梅酒や果実酒といった「果糖が含まれたお酒」です。
また、「一緒に食べるもの」に注意しましょう。
まず、レクチン(植物毒)が多い「大豆」(豆腐や枝豆、厚揚げやもやしなど)や「トウモロコシ」「ナッツ」は避けたほうがいいです。リーキーガットになるからです。リーキーガットになると、腸の慢性炎症で生じる炎症性サイトカインがすべて肝臓に流入します。その結果、肝臓や胆管に炎症がおきやすくなります。
鳥のから揚げやフライドポテトといった「揚げ物」も避けたほうがいいです。酸化した油脂(過酸化脂質)は、身体の老化と炎症を促すからです。酒の肴としては、焼鳥や焼き魚、お刺身、焼肉、煮物、海藻などが望ましいでしょう。
また、お酒を飲んだ後は低血糖になりますから、糖質も摂取することが大事です。アルコールを分解するために、ブドウ糖が消費されてしまうからです。もし糖質を摂らないで寝てしまうと、低血糖によってアドレナリンが分泌されるので目が覚めてしまいます。朝までグッスリ眠るには、糖質を摂って低血糖にならないようにすることです。しかし、ラーメンやうどんは避けましょう。小麦には、リーキーガットを促すグルテンが含まれているからです。シメに最適なのは、ご飯(おにぎりやお茶漬け)です。
肝機能を高めるグルタミン
肝機能を高める作用が高いアミノ酸が、「グルタミン」です。
グルタミンを摂取すると、肝臓でグルタミンがグルタミン酸に変わり、グルタミン酸とシスチンとグリシンという3種のアミノ酸から「グルタチオン」という強力な抗酸化物質が生成されます。その結果、肝機能が高まります。
グルタミンは薬物の解毒を助け、肝臓を保護します。
またグルタミンには、脂肪肝を防ぐ効果もあります。
グルタミンの摂取量の目安は通常1日5g~15gで、病気によっては40gまでは摂取して大丈夫です。1日分を1回で飲むより、3~5回に分けて飲むほうが効果的です。
グルタミンは熱と酸に弱いので、お湯に溶かしたり、ビタミンCやクエン酸や酢といった酸性のものと混ぜたりすると効力が失われてしまいます。お湯ではなく、水に溶かして飲むようにしましょう。ブドウ糖を混ぜるのは問題ありません。水に溶かしたらすぐに飲むのがベストですが、何時間後に飲む場合は冷蔵庫に保管するほうがよいでしょう。